この記事は2025年7月に公開し、最新の情報をもとに随時更新しています。(最終更新:2026年3月)
はじめに
普段は仕事論みたいなものをSNSで発信することはありません。Xもほとんど使っていません。発信するのは自社サービスのアップデート情報くらいです。
ただ、知人や後輩から「経営で大事にしていることは?」と聞かれることがたまにあります。そのたびに口頭で答えていたのですが、同じことを何度も話している気がしてきたので、自分用のメモとして書いておきます。
2008年に起業して18年。ベテランっぽく聞こえますが、中身は試行錯誤の連続です。華々しい成功体験はありません。一度もバズったことはありませんし、メディアに取り上げられたこともありません。ただ、潰れずに続いています。毎月の売上を作り、スタッフの給料を払い、家族を養います。それだけのことを18年間やってきた、というのが正直なところです。
業績に影響したこと
1. 固定費を下げたこと
一番業績に影響したのは、固定費のコントロールです。これは間違いありません。
自分はオフィスを持たない在宅ワーク中心のスタイルを早い段階で選びました。福岡の自宅で仕事をして、スタッフもリモートです。これだけでオフィス賃料、光熱費、通勤手当がゼロになります。福岡市内でオフィスを借りたら、小さくても月5〜10万円。年間60〜120万円。これがゼロです。
月の固定費が低いと、売上が落ちても耐えられます。逆に、固定費が高いと売上が少し下がっただけで赤字になります。コロナ禍でオフィスを持っていた同業者が苦しんでいたとき、うちはほぼ影響がありませんでした。「通勤できない」「オフィスの賃料が重い」という問題がそもそも存在しませんでした。
2026年現在、中小企業の人手不足倒産が過去最多を記録しています。人件費は最大の固定費です。自分は正社員を増やすよりも、BPOスタッフや業務委託で対応する形を維持しています。忙しいときは人を増やし、落ち着いたら減らせます。固定費を変動費に変える考え方です。この柔軟性が、18年間の生存に直結しています。
2. 既存顧客を大事にしたこと
新規営業に力を入れた時期もありましたが、振り返ると業績への貢献度は既存顧客のほうが圧倒的に高いです。
既存のクライアントに丁寧に対応して、追加の相談をもらい、紹介をいただきます。この流れが売上の7〜8割を占めています。新規は残りの2〜3割です。営業コストを考えると、既存顧客の維持コストは新規獲得の5分の1以下です。
具体的にやっていることは地味です。月1回の定例報告では、単なる作業報告ではなく「次にやったほうがいいこと」の提案を添えます。問題の早期発見と報告。悪い報告ほど先に、正直に伝えます。クライアントの業界ニュースをチェックして情報提供します。「気にかけてくれている」と感じてもらえると、他社に切り替えにくくなります。
紹介で来るクライアントは、最初から信頼関係のベースがあります。価格交渉も穏やかですし、長く付き合えることが多いです。紹介をもらうために何か特別なことをしているわけではありません。目の前の仕事を丁寧にやります。それだけです。
3. 値段を下げなかったこと
起業初期に安売りして失敗した経験があります。月額5万円で受けた案件が、工数的には15万円の仕事でした。でも「実績を作りたい」「次の案件につなげたい」と思って安く受けました。
結果、次の案件も「前回5万円だったんだから」と言われて安い単価から抜け出せなくなりました。安い単価は「実績」ではなく「前例」になります。一度下げた価格を上げるのは、新規で適正価格を提示するよりもはるかに難しいです。
この経験から、最低単価を決めて絶対に下回らないルールを作りました。円安や物価高の影響で、2026年は特にコスト意識が高まっていますが、だからこそ「安くする」のではなく「価値を説明する」ことが大事です。安売りで消耗するより、適正価格で選んでくれるクライアントを見つけるほうが健全です。
4. スキルの幅を広げたこと
自分はデザイナー出身ですが、コーディング、サーバー管理、マーケティング、AIツール開発と、領域を広げてきました。「T字型人材」と言われるやつです。デザインが軸で、横に広げます。
1つの専門領域だけだと、その市場が縮小したときに逃げ場がありません。デザインだけでは食えなくなる時期が来るかもしれません。実際、AIの画像生成が進化して、簡単なバナーやロゴはAIで作れるようになりました。デザインだけに依存していたら、危なかったです。
複数の領域をカバーできると、クライアントにとって「この人に頼めばいろいろ相談できる」存在になれます。結果的に、単価も上がりますし、案件の幅も広がります。「デザインもできて、コードも書けて、AIも使える人」は希少価値があります。
2017年からAIの活用を始めたのは、振り返ると大きなターニングポイントでした。IBM Watsonを触ったのが最初で、そこからChatGPTの登場を経て、今は自社でAIビジネスツールを開発するまでになりました。好奇心に従って手を出した結果が、今の事業の柱になっています。
5. 仕組み化を進めたこと
「自分がいないと回らない」状態は経営リスクです。経営者が作業者も兼ねている状態は、体調を崩したらアウトです。家族の用事で1日休めません。
業務マニュアルを整備し、ルーティン作業はスタッフに任せ、自分は判断が必要な業務に集中します。この仕組み化を進めたことで、自分の時間が生まれ、新しいことに取り組む余裕ができました。
AIの活用は仕組み化の延長線上にあります。マニュアル作成、メール対応、議事録、データ集計。人がやっていた作業をAIに任せることで、さらに時間が生まれます。仕組み化→省人化→自動化。この流れが、小さな会社の生存戦略だと思っています。
業績に影響しなかったこと
1. SNSでの発信
正直に書きます。SNSでの発信は、うちの業績にはほとんど影響しませんでした。
フォロワー数を増やす努力をした時期もありましたが、SNS経由で仕事の問い合わせが来ることはほぼありませんでした。うちの場合、新規案件は既存顧客からの紹介か、直接営業で獲得しています。BtoBの小さな会社には、SNSマーケティングは効率が悪いです。
ただし、ブログは別です。ブログ経由での問い合わせは少しずつ増えています。SNSとブログでは、情報の寿命が違います。SNSは流れますが、ブログは残ります。検索から見つけてもらえます。
2. 最新技術への飛びつき
新しいツールやサービスが出るたびに飛びついていた時期がありました。でも、技術を追いかけること自体は売上に直結しません。
大事なのは「クライアントの課題を解決できるか」であって、最新技術を使っているかどうかではありません。枯れた技術でも課題を解決できればそれでいいです。クライアントは技術には興味がありません。自分の問題が解決するかどうかにしか興味がありません。
技術の選定基準は「安定性」「自分が理解できるか」「クライアントの課題に合っているか」です。新しさは基準に入っていません。
3. 完璧な事業計画
事業計画書を精緻に作り込んでも、その通りに進んだことは一度もありません。計画は大枠で十分です。「今月の売上目標」「今四半期の重点施策」くらいの粒度で、あとは状況に応じて柔軟に動きます。
2026年の経営環境は変化が激しいです。円安、金利上昇、人手不足。3年先の計画を立てても意味がありません。半年先を見据えて、四半期ごとに見直します。これが現実的です。計画に時間を使うより、実行に時間を使います。
4. 人脈づくりの交流会
起業初期は異業種交流会によく参加していました。名刺交換をたくさんして、「いつかビジネスにつながれば」と思っていました。
結果、交流会で知り合った人からの仕事は、18年間でゼロです。一件もありません。仕事につながるのは、仕事を通じて信頼を築いた相手からだけです。目的のない人脈づくりは時間の無駄でした。その時間を既存顧客への対応に使ったほうが、はるかに効果的でした。
まとめ
18年やってわかったのは、地味なことの積み重ねが業績を作るということです。
固定費を下げる、既存顧客を大事にする、安売りしない、スキルの幅を広げる、仕組み化する。どれも当たり前のことばかりですが、この当たり前を愚直に続けることが、小さな会社が生き残る唯一の方法だと思っています。
逆に、SNS、最新技術への飛びつき、完璧な計画、人脈づくり。これらは自分の場合は業績に影響しませんでした。他の人には効くのかもしれませんが、少なくとも自分のような小さなBPO・IT会社には合いませんでした。
華やかな話は何もありませんが、19年目も地味にやっていきます。潰れないことが、最大の経営戦略です。
