EC支援という仕事の構造的な問題
自分の会社ではEC運営のサポートをやっています。クライアントから「ECの売上を伸ばしたい」と相談を受けて、広告運用やサイト改善の提案をします。かれこれ数年この仕事を続けてきました。
提案すること自体は間違っていないと思います。でも、ある時期から「自分たちは本当にクライアントの役に立っているんだろうか」と思うようになりました。
その引っかかりの正体が何なのか、言語化するのにかなり時間がかかりました。結論から言うと、EC支援という仕事には「部分最適に陥りやすい構造」が内在している、ということです。
「ECを強化したい」の裏にあるもの
あるアパレル企業から「自社ECサイトのコンバージョン率を改善したい」と相談がありました。
言われた通りにやるなら、ランディングページの改善やリスティング広告のROASを上げる提案をすればいいのです。短期的には数字も出るかもしれません。実際、そういう提案をして結果を出してきた案件も少なくありません。
でもこの案件では、よく話を聞いてみると、実店舗の売上が落ちていました。会社全体の収益構造が揺らいでいます。ECを強化したいのではなく、会社を立て直したいのです。ECはその手段のひとつに過ぎませんでした。
こういうケースは珍しくありません。むしろ、ほとんどがそうだと今は思っています。「ECの売上を上げたい」という相談の裏に、「会社全体をなんとかしたい」という本当の課題が隠れています。
部分最適が起きるメカニズム
EC支援という仕事の構造上、提案が「EC内の改善」にとどまりやすいです。その理由は3つあります。
1. クライアントの依頼が「EC」に限定されている
クライアントは「ECを強化したい」と言って相談に来ます。そこに応えるのは自然な流れです。「いえ、ECよりも実店舗の立て直しが先です」と言うのは、相手の期待に反します。しかも、それは自分たちの受注範囲を超えた話になります。だから、目の前のEC改善に集中してしまいます。
2. 評価基準がEC指標に偏る
EC支援の成果は、PV、CVR、売上、ROAS、LTVといったEC特有の指標で測られます。これらの数字が改善されれば「成功」とされます。でも、EC指標が上がっても、会社全体の利益が下がることがあります。ECの広告費を増やして売上を伸ばしても、全体の利益率が下がっていれば、それは本当に成功なのでしょうか。
3. 全体像を見る立場にいない
EC支援の会社は、クライアントの財務状況や経営戦略のすべてを把握しているわけではありません。実店舗の売上推移、人件費の構造、在庫の回転率。こうした情報がないまま、EC部分だけを最適化しようとします。結果、全体の中のEC部分だけが良くなって、他の部分にしわ寄せがいきます。
この3つの構造的な要因が、部分最適を引き起こしています。個々の担当者の能力の問題ではなく、仕事の構造自体がそうなりやすいのだと気づきました。
自分自身もはまっていた
偉そうに書いていますが、自分自身もこの罠にはまっていた時期がありました。
クライアントの要望に応えることに集中するあまり、「この施策は本当に会社全体のためになっているのか」という視点が弱くなっていました。
具体的な話をします。あるクライアントのEC経由の売上を月300万円から500万円に伸ばしました。EC支援としては文句なしの成功事例です。レポートでも「EC売上167%成長」と報告して、クライアントにも喜ばれました。
でも、半年後にわかったのは、同じ期間で実店舗の売上が400万円減っていたことです。EC集客のために実店舗のスタッフをEC作業にシフトしたのが原因でした。実店舗の接客品質が下がり、常連客が離れていきました。
トータルで見ると、売上は100万円減。利益率も下がっていました。自分たちの提案がクライアントを悪い方向に導いていた可能性があります。これに気づいたとき、正直かなりへこみました。
もちろん、スタッフの配置転換は自分たちが指示したわけではありません。クライアントの経営判断です。でも、「ECの数字だけを追いかける」という方向性を作ったのは、自分たちの提案です。全体への影響を考えずに、EC部分の最適化を推し進めた結果でした。
全体最適のためにやるようにしたこと
この経験から、相談を受けたときの対応を変えました。3つのことを意識しています。
まず経営の全体像を聞く
「ECの改善」から入らないようにしています。最初に聞くのは、「会社として何を目指していますか」です。売上を伸ばしたいのか、利益率を上げたいのか、新規顧客を増やしたいのか。3年後、5年後にどうなっていたいのか。それによって、ECに投資すべきかどうか自体が変わります。
最初のヒアリングに1〜2時間かけます。以前は30分で「ではECの改善案を作りますね」と進めていましたが、今はここを急ぎません。この時間が、後の提案の質を大きく変えます。
EC以外の選択肢も提示する
「ECに投資するよりも、既存顧客のLTVを高めるCRM施策に注力したほうが利益率が上がりますよ」という提案をすることもあります。EC支援の会社がEC以外を勧めるのは矛盾しているように見えるかもしれません。でも、クライアントにとって最善の選択肢が何かを考えると、そういう結論になることもあります。
実際、ある飲食店のクライアントには「ECサイトを新規で作るよりも、既存のSNSフォロワーをLINE公式アカウントに集めて、そこからリピート注文を促すほうが費用対効果が高い」と提案しました。EC支援としての受注金額は減りましたが、クライアントの月間売上は2ヶ月で15%改善しました。
短期的には自社の売上が下がる提案です。でも、クライアントが成長すれば、長期的には自分たちへの信頼も仕事も増えます。この考え方に切り替えてから、リピート率が上がりました。
数字を「EC指標」だけで見ない
報告のときに、EC指標だけでなく、可能な範囲で全社の業績との関連も示すようにしています。「EC売上は前月比120%でしたが、全社の利益率はどう推移していますか?」と聞きます。「ECの広告費が増えた分、全体のコスト構造はどう変化しましたか?」と確認します。
この質問をするだけで、クライアント側でも「全体最適」の意識が生まれます。EC担当者だけでなく、経営層も交えた報告会を提案することもあります。EC施策の効果を、全社的な文脈で評価してもらうためです。
それでも完璧にはできない
こうした取り組みを始めてから、クライアントとの信頼関係は確実に深くなりました。「ECだけじゃなくて、うちの事業全体のことを考えてくれている」と言ってもらえることが増えました。結果的に、顧問契約的な長期の関係に発展するケースも出てきています。
でも、正直に書くと、まだまだです。日々の業務に追われると全体を見る余裕がなくなることもあります。クライアントが「とにかく今月のEC売上を上げてほしい」と言えば、目の前の数字に集中してしまう自分もいます。
特に、クライアントのKPIがEC売上で設定されている場合、全体最適を提案しても「でも上に報告するのはEC売上なんです」と言われることがあります。組織の評価制度自体が部分最適を促進しています。こういう構造的な問題は、EC支援の会社だけでは解決できません。
「この提案は本当に企業にとって最善の選択肢なのか」。これを常に自問するようにしていますが、完璧にはできていません。
まとめ
EC支援は構造的に「部分最適」に陥りやすい仕事です。
- クライアントの「ECを強化したい」の裏にある本当の課題を見る
- EC以外の選択肢を提案する覚悟を持つ
- 数字をEC指標だけで評価しない
企業が求めているのは「ECの成功」ではなく「企業としての持続的な成長」です。ECはあくまで手段のひとつです。その枠にとらわれず、本質的な課題に寄り添った提案ができるか。ここが、支援の価値を分けるところだと思っています。
自分自身がこれを完璧にできているわけではありません。日々の支援の中で、少しずつこの視点を持てるようになってきた、という段階です。
