2008年に起業して、18年が経ちました。お金について、教科書には載っていない現場の話を書きます。偉そうなことを言うつもりはなくて、自分がつまずいたことの記録です。
売上と利益は別物だと気づくまでに3年かかった
起業して最初の数年、自分は売上の数字ばかり追いかけていました。月の売上が100万円を超えた、200万円になった。数字が大きくなるのが嬉しくて、利益率のことは後回しにしていました。
ところが、売上は伸びているのに口座残高は減っていきます。外注費、広告費、ツールの月額費用。売上に比例してコストも増えていたのに、それを見ていませんでした。
あるとき月末に通帳を見て「売上300万あるのに、なんで手元に30万しかないんだ」と気づきました。利益率を意識し始めたのはそこからです。売上1億で利益100万の会社と、売上3,000万で利益500万の会社。後者のほうが健全だということを、頭ではなく体で理解するまでに時間がかかりました。
自分の場合、利益率が改善したきっかけは「粗利率」を毎月追いかけるようにしたことです。案件ごとに外注費と直接費を引いた粗利を出して、粗利率が30%を切る案件がないかチェックします。この習慣をつけてから、「売上は大きいけど利益が出ない案件」を事前に断れるようになりました。数字を見る前は「大きい案件は良い案件」だと思い込んでいましたが、実際に粗利を出してみたら赤字寸前の案件もありました。
固定費は静かに会社を殺す
オフィスの家賃、正社員の人件費、SaaSの月額費用。固定費は売上がゼロの月でもかかり続けます。これが怖いです。
自分の方針は「できるだけ固定費を変動費に変える」ことです。オフィスは持たず、自宅で仕事をしています。スタッフは外注ベースで、案件に応じて人数を調整します。SaaSは毎月見直して、使っていないものは即解約します。
これは「ケチ」というわけではありません。売上が予測通りにいかない月は必ず来ます。そのときに固定費が重いと、判断を誤ります。「今月の家賃を払うために、安い仕事でも受けなきゃ」という思考になると、経営がおかしくなります。
固定費を軽くしておくと、仕事を選べる余裕が生まれます。この余裕がめちゃくちゃ大事でした。
具体的な数字で言うと、以前はオフィスの家賃だけで月15万円かかっていました。自宅作業に切り替えてからこの15万円がゼロになりました。年間180万円の固定費削減です。SaaSの見直しでも、使っていなかったツールを5つ解約して月2万円、年間24万円を削減しました。合計で年間200万円以上のコスト削減です。この分がそのまま利益になりました。
コロナ禍でリモートワークが当たり前になったおかげで、「オフィスがないと信用されない」という空気もなくなりました。タイミングが良かったとも言えますが、固定費を削る決断は早いほどいいです。迷っているうちに毎月の家賃が流れていきます。
キャッシュフローは利益よりも優先度が高い
利益が出ていても、現金が手元にないと会社は潰れます。黒字倒産という言葉がある通り、PL(損益計算書)よりもCF(キャッシュフロー)のほうが重要です。
EC支援の仕事をしていると、入金サイクルと支払サイクルのズレに悩まされることが多いです。請求書を出してから入金まで2ヶ月。でも外注への支払いは翌月。この差を埋めるための運転資金を常に確保しておく必要があります。
自分は「最低3ヶ月分の固定費」を常に口座に残すようにしています。これを下回ったら危険信号です。新しい投資や大きな買い物は、この水準を維持できる範囲でしかやりません。
リーマンショック直後に起業した経験から、「現金があれば何とかなる」ということだけは確信を持っています。
キャッシュフローの管理で実際に役立っているのは、「入金予定表」を作ることです。Googleスプレッドシートに、請求済みだけど入金前の案件を一覧にして、入金予定日と金額を書いておきます。これだけで「来月の手元資金がいくらになるか」が見通せます。予測が立てば、先手で動けます。資金がショートしそうなら、請求のタイミングを前倒しにしたり、入金条件を交渉したりできます。何も見えない状態で「なんとかなるだろう」と思っているのが一番危ないです。
もうひとつ実践しているのは、大きな案件では着手金をもらうことです。全額を納品後に一括請求するのではなく、着手時に30%、中間で30%、納品後に40%のように分割します。クライアントにとっても分割のほうが払いやすいし、自分にとってはキャッシュフローの安定につながります。
安売りは麻薬、一度下げた価格は戻せない
値下げすれば一時的に売上は伸びます。でも一度下げた価格を元に戻すのは、新規の価格設定よりも遥かに難しいです。
EC支援の現場でも、クライアントが「とりあえずセールで売上を作りたい」と言うことがあります。気持ちはわかります。でもセール価格で買った客は、次も同じ価格を期待します。定価に戻した瞬間に離れます。
自分の会社でも、駆け出しの頃は「安くてもいいから仕事が欲しい」と安売りしていた時期があります。結果、安い単価の仕事で忙殺されて、利益が出ません。しかもその価格が「相場」として定着してしまい、値上げの交渉が通らなくなりました。
今は、自社の最低単価を決めて、それを下回る仕事は受けないと決めています。短期的には機会損失になることもあります。でも長期的には、これが正しいと実感しています。
値上げに成功した方法もあります。既存クライアントには「来月から新しい料金体系に移行します」と事前に伝えます。その際に、料金が上がる理由と、それに伴う付加価値(レスポンス速度の向上、月次レポートの追加など)を明示します。理由なき値上げは反発を受けますが、価値とセットで伝えれば理解してもらえることが多かったです。実際、値上げでクライアントが離れたのは10%以下でした。残った90%のクライアントとの仕事は、利益率が改善して双方にとって良い関係になりました。
「お金の話」を避ける経営者は危ない
日本の中小企業の経営者には、お金の話を嫌がる人が多い印象があります。「お金のためにやっているんじゃない」という気持ちはわかります。自分もそうでした。でも、お金の管理を後回しにすると、結局は好きな仕事ができなくなります。
自分がやっていることは地味です。毎月の収支を記録する。キャッシュフローの予測を3ヶ月先まで立てる。固定費を見直す。請求書の回収状況を確認する。
会計ソフト(自分はfreeeとマネーフォワードを併用しています)に入力するのは面倒ですが、数字を見る習慣がついてから、経営判断のスピードと精度が上がりました。感覚ではなく数字で判断できるようになりました。
会計ソフトの使い分けとしては、freeeは日常の経理処理(請求書発行、経費精算、銀行同期)に使っていて、マネーフォワードは確定申告と年間の財務分析に使っています。どちらか一方でも十分ですが、自分は両方使うことでクロスチェックができる体制にしています。月額費用は合計で5,000円程度です。税理士に丸投げするよりは安いし、自分で数字を見る習慣がつきます。
投資と浪費の線引き
経費の使い方にはルールがあります。「これは投資か、浪費か」を必ず自問します。
投資の例:スキルアップのための書籍や講座、業務効率化のためのツール導入、売上に直結する広告費。浪費の例:見栄のためのオフィス、使わない高機能なツール、成果が測れない広告。
線引きの基準はシンプルで、「これを使った結果、いくらの売上または時間短縮につながるか」を考えます。答えが曖昧なら、たいてい浪費です。
特にSaaSの月額費用は要注意です。1つ1つは月額数千円でも、10個契約すると月5万円。年間60万円です。使っていないツールがないか、四半期に一度は棚卸しするようにしています。
棚卸しの方法は簡単で、クレジットカードの明細を見て「このサービス、先月使ったか?」と自問するだけです。使っていなければ即解約します。「いつか使うかも」は浪費のサインです。この棚卸しで年間10万円以上削減できた年もあります。
逆に、投資だと判断したものには迷わず出します。最近だとAIのAPI費用がそうです。月に数万円かかりますが、業務効率化の効果が明らかに費用を上回っています。投資の判断基準は「3ヶ月以内に費用を回収できるか」です。この時間軸で考えると、判断がしやすくなります。
お金の失敗から学んだ3つの原則
18年間で何度もお金のことで失敗してきました。そこから自分なりに固まった原則が3つあります。
1つ目、売上よりも利益、利益よりもキャッシュフロー。この優先順位を間違えません。売上がいくら大きくても、手元に現金がなければ意味がありません。
2つ目、固定費は限界まで軽くします。身軽さは経営の自由度に直結します。固定費が重い会社は、不況が来たときに身動きが取れなくなります。
3つ目、安売りしません。価格は一度下げたら戻せません。自分の価値を自分で下げるようなことはしません。
どれも当たり前のことかもしれません。でも「知っている」と「できている」の間には、大きな溝があります。自分はこの溝に何度も落ちました。18年やってきて思うのは、お金の失敗は早い段階でするほど傷が浅いということです。売上が小さいうちに固定費の怖さを学んだから、会社が大きくなっても同じ失敗をしなくて済みました。
まとめ
お金の管理は、経営の基礎中の基礎です。でも自分はここで何度もつまずきました。18年経った今でも完璧にはできていません。ただ、つまずくたびに仕組みを作って、同じ失敗を繰り返さないようにしてきました。
これから起業する人に伝えたいのは、お金のことは最初から仕組みで管理してほしいということです。感覚でやると必ず痛い目に遭います。スプレッドシートでもいい、会計ソフトでもいい、手書きのノートでもいい。とにかく数字を見る習慣をつけてほしいです。
精神論で「頑張れ」とは言いません。仕組みで解決する。それが自分のスタイルです。
