2026年5月7日、Nous ResearchのHermes Agentに v0.13.0
が出ました。リリース名は
The Tenacity Release。直訳すると「粘り強さ」のリリースです。
私はこの更新を、単なる新機能追加というより、AIエージェントを実務の中に入れていくうえでかなり重要な方向転換として見ています。
AIエージェントの話になると、どうしても「どのモデルが賢いか」「Claudeがいいか、Codexがいいか、Geminiがいいか」という話に寄りがちです。もちろんモデル性能は大事です。ただ、会社の仕事に入れる時に本当に詰まるのは、そこだけではありません。
実務で問題になるのは、もっと地味です。
たとえば、頼んだ仕事が途中で止まった時に誰が気づくのか。担当中の作業が終わったのか、失敗したのか、まだ考えているだけなのかをどう判定するのか。再起動したあとに、会話や作業状態をどこまで戻せるのか。危ない操作を誰が承認するのか。複数のAIに仕事を分けた時に、作業が重複したり、完了したふりになったりしないのか。
人間の社員であれば、ここは上司やチームの仕組みで吸収しています。日報、タスク管理、確認、レビュー、引き継ぎ、権限管理、再依頼。会社の仕事は、能力だけで回っているわけではなく、こうした運用の型で回っています。
Hermes Agent
v0.13.0は、この「AIを社員のように使うなら避けて通れない運用の穴」にかなり寄ったリリースです。
今回の更新で何が大きいのか
公式リリースで中心に置かれているのは、Durable Multi-Agent
Kanban、/goal、Checkpoints
v2、gatewayの自動復帰、cronのwatchdogモード、セキュリティ強化です。
名前だけ見ると技術機能の羅列に見えます。ただ、中小企業の業務実装目線で読むと、これはかなり分かりやすい話です。
一言で言えば、Hermes
Agentが「思いついた時に会話するAI」から、「仕事を持たせて、状態を見ながら、完了まで粘らせるAI」に近づいています。
これまでのAIツールの多くは、優秀な担当者のように見えても、実際には一回の会話単位で閉じていました。こちらが丁寧に依頼すれば良い返答は返ってくる。でも、途中で失敗した時の復旧、長い仕事の継続、複数作業の整理、権限の分離、完了確認は人間側に残ります。
この部分が残ったままだと、AI導入は「すごいけど、結局こちらが見張らないといけないもの」になります。社長や責任者の時間が減るどころか、AIの出力確認と指示出しで逆に忙しくなることもあります。
v0.13.0で強化された方向は、まさにそこです。
Durable
Multi-Agent Kanbanは、AI社員化の土台に近い
今回の目玉のひとつが、Durable Multi-Agent
Kanbanです。公式説明では、複数のHermes profile /
workerが共有ボード上で作業でき、heartbeat、task reclaim、zombie
detection、retry、worker log、task ownershipなどが入っています。
これは、実務目線ではかなり大きいです。
AIに仕事を頼む時、怖いのは「失敗すること」そのものではありません。失敗に気づけないことです。
人間のチームでも同じです。仕事が遅れることはあります。調査に時間がかかることもあります。判断待ちになることもあります。問題は、それが見えないまま放置されることです。
AIエージェントの場合、この問題はさらに強く出ます。画面の向こうで動いているように見えて、実は止まっている。完了したと言っているが、成果物がない。別の作業者が同じファイルを触っている。途中のログが残っていない。これでは会社の仕事としては使いにくい。
Kanbanの耐久性が上がるというのは、単にタスクボードが便利になるという話ではありません。AIに「持たせた仕事」を、会社側が追跡できるようにする話です。
中小企業でAIを使う場合、最初から大規模なAI組織を作る必要はありません。ただ、少なくとも次のような状態は必要です。
- 何を依頼したかが残っている
- 誰が、またはどのAIが担当しているかが分かる
- いつから止まっているかが分かる
- 失敗した時に再実行できる
- 完了時に成果物と確認結果が残る
- 危ない操作は勝手に進まない
これがないと、AIは便利な相談相手ではあっても、業務を預ける相手にはなりにくいです。
/goal
は、AIの「脱線しやすさ」への対策
もうひとつ注目したいのが、/goal です。公式リリースでは
persistent goals、Ralph loop と説明されています。
AIを長く使っている人なら分かると思いますが、AIは会話が続くほど目的がぼやけることがあります。最初は「記事の下書きを作る」だったのに、途中で調査だけ増えたり、別の改善案に寄ったり、良いことは言うけれど最初のゴールに戻らなかったりする。
これは、人間の部下でも起こります。賢い人ほど、話を広げすぎることがあります。だから会社では、目的、期限、成果物、判断基準を明確にします。
/goal は、それをAI側に持たせる方向の機能です。
もちろん、これだけで完璧になるわけではありません。ただ、AIエージェントを長い仕事に使うなら、目標を会話の流れに埋もれさせない仕組みはかなり重要です。
中小企業で使うなら、たとえば次のような業務と相性がよいはずです。
- 毎朝の業界ニュース確認と要点整理
- 競合サイトや公式リリースの定点観測
- 社内マニュアルの更新候補抽出
- 問い合わせ内容の分類と返信案作成
- ブログ記事や営業資料の下書き作成
- 定期的なSEO・検索順位・サイト品質チェック
これらは一回の返答で終わる仕事ではありません。目的を持ち続け、定期的に見直し、必要な時だけ人間に判断を返す運用が向いています。
Checkpoints
v2と復旧性は、地味だが会社利用では重要
AIツールの紹介では、派手なデモが目立ちます。画面を操作する、コードを書く、資料を作る、ブラウザを自動で動かす。見た目には分かりやすいです。
でも、会社に入れる時に本当に大事なのは、失敗時に戻れることです。
人間が業務で使うシステムにも、バックアップ、履歴、承認、復元があります。なぜなら、仕事では必ずミスが起きるからです。
Hermes Agent v0.13.0では、Checkpoints
v2として状態保存の仕組みが見直されています。公式説明では、single-store
architecture、real pruning、disk guardrails、orphan shadow
repoの除去などが挙げられています。
技術用語としては少し細かいですが、実務上の意味はシンプルです。
AIがファイルを触る、設定を変える、長時間作業する。その時に、状態が散らかりすぎないこと、不要な残骸が増えないこと、戻すべき地点を扱いやすくすることが重要になります。
特に中小企業では、専任の情シスやDevOps担当がいないことも多いです。だからこそ、AIエージェント自体が安全に止まり、安全に戻れる設計へ向かうことは大事です。
セキュリティ強化は「普及前の必須条件」
今回のリリースでは、セキュリティ面の変更も大きく扱われています。公式リリースでは、8件のP0クローズ、secret
redactionのデフォルト有効化、Discordのrole
allowlistのguild単位化、WhatsAppの未知ユーザー拒否、auth.jsonやMCP
OAuthまわりのTOCTOU修正、cron prompt injection
scanなどが挙げられています。
ここは、かなり現実的なポイントです。
AIエージェントを会社で使うということは、単にチャットすることではありません。ファイルを読み、Webを見に行き、コマンドを実行し、場合によっては外部サービスと連携します。つまり、便利になるほど危険にもなります。
特に気をつけるべきなのは、次のような領域です。
- 秘密情報がログや出力に混ざる
- メッセージング経由で想定外の人が操作できる
- 自動実行の指示文に悪意ある内容が混ざる
- 外部サービス連携の秘密情報が安全に扱われない
- AIが権限を超えた操作をしてしまう
AI導入の相談を受ける時、「どこまで自動化できますか」と聞かれることがあります。私はいつも、できることより先に「どこまで自動でやってよいか」を決めるべきだと思っています。
今回のHermes
Agentの更新は、その現実にかなり近いです。AIが賢くなるほど、セキュリティと権限設計は後回しにできません。
中小企業が今すぐ真似するなら、どこから始めるべきか
ここまで読むと、「ではうちの会社でもAI社員を動かせるのか」と感じるかもしれません。
私の答えは、半分Yesです。
ただし、いきなり基幹業務や顧客対応を完全自動化するのはおすすめしません。まずは、失敗しても会社に大きな損害が出にくく、成果物を人間が確認できる領域から始めるのが現実的です。
最初の候補は、次のような仕事です。
1つ目は、情報収集です。公式リリース、業界ニュース、競合の更新、法改正、補助金情報などを毎日または毎週確認し、要点だけをまとめる。これはAIエージェントと相性がよいです。
2つ目は、社内ナレッジ整理です。議事録、メモ、過去資料、マニュアル、FAQを読み、重複や古い情報を見つける。人間がやると後回しになりがちですが、AIなら継続作業に向いています。
3つ目は、下書き作成です。ブログ、営業資料、メール返信案、提案書のたたき台などです。ただし、公開・送信は人間承認にします。AIが作るのは初稿であり、会社の責任ある発言は人間が確認するべきです。
4つ目は、定期点検です。Webサイトにnoindexが入っていないか、問い合わせフォームが表示されているか、記事の文字数や内部リンクが不足していないか、古い情報が残っていないか。こうした地味な点検は、AIエージェント運用の初期テーマとしてかなり向いています。
逆に、まだ任せすぎない方がよい仕事
一方で、最初から任せすぎない方がよい仕事もあります。
契約、金銭判断、請求、顧客への最終送信、採用判断、法務、機密情報を含む外部共有、削除や本番反映を伴う操作。このあたりは、AIだけで進めるべきではありません。
AIエージェントは、判断材料を集めたり、下書きを作ったり、リスクを整理したりするには非常に有効です。しかし、会社としての意思決定や責任が発生する箇所には、人間の承認ゲートが必要です。
これはAIを信用していないからではありません。むしろ、AIを本当に業務に入れるために必要な設計です。
人間の社員でも、入社直後から契約締結や支払い判断を単独で任せることはありません。権限と責任を段階的に渡します。AIエージェントも同じです。
Hermes
Agentの面白さは、単体ツールではなく運用思想にある
Hermes
Agentを見ていて面白いのは、単に「便利なCLIエージェント」ではなく、運用思想がかなりはっきりしているところです。
公式ドキュメントでは、Hermes Agentは self-improving autonomous AI
agent
と説明されています。経験からskillsを作り、記憶を持ち、複数の環境で動き、Telegramなどのメッセージング経由でも操作できる。つまり、最初から「継続稼働するAI作業者」に寄せた設計です。
ここは、ChatGPTのような会話AIとも、IDEに寄ったコード補助ツールとも少し違います。
もちろん、実際に会社で使うには設定や運用設計が必要です。何でも入れれば勝手に成果が出るわけではありません。むしろ、導入時に業務範囲、権限、ログ、承認、停止条件、成果物の確認方法を決めないと危険です。
ただ、v0.13.0を見る限り、Hermes
Agentはその現実に向かってかなり具体的に進んでいます。
私が特に見ているのは、AIエージェントが「賢い返答をする存在」から「会社の中で仕事を持ち、失敗し、復旧し、改善される存在」へ近づいている点です。
この変化は、AI活用の次の段階としてかなり重要だと思っています。
まずは小さなAI社員から始める
中小企業がこの流れを取り入れるなら、最初の目標は「すごいAI自動化」ではなく、「小さなAI社員」を一人置くことです。
たとえば、毎朝決まったテーマを調べて報告する。社内メモを整理する。Webサイトの状態を点検する。記事の下書きを作る。問い合わせ内容を分類する。こうした仕事を、明確な範囲と承認ルールの中で任せます。
そして大事なのは、毎回ゼロから指示しないことです。
うまくいった手順は残す。失敗したパターンも残す。次回はその経験を使う。これができると、AI活用は単発の時短ではなく、会社の運用資産になります。
Hermes
Agentが面白いのは、この「経験を資産化する」方向にかなり強く寄っていることです。v0.13.0のKanban、goal、checkpoint、gateway
resume、security hardeningは、その土台を固める更新だと見ています。
まとめ
Hermes Agent
v0.13.0は、派手なデモ機能というより、AIエージェントを実務に入れるための耐久性を上げるリリースです。
私が特に重要だと思う点は、次の5つです。
- 複数AIに仕事を持たせるためのKanbanが強化された
- 長い仕事で目的を見失わないための
/goalが入った - 状態保存と復旧の基盤が改善された
- gatewayやcronなど、継続運用に必要な部分が強くなった
- セキュリティと権限設計が前提として扱われている
AIエージェントは、単に賢いだけでは会社の仕事に入りません。仕事を受け、進捗を残し、失敗時に復旧し、危ない操作は止め、人間が確認できる形で成果物を出す必要があります。
今回のHermes Agentの更新は、その方向にかなり近いです。
日本の中小企業にとっても、この流れは早めに見ておく価値があります。AIを導入するかどうかではなく、AIにどの仕事をどの権限で持たせ、どこで人間が確認するか。その設計が、これからの差になるはずです。
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参照元
- Hermes Agent Releases:
https://github.com/NousResearch/hermes-agent/releases - Hermes Agent v0.13.0 Release:
https://github.com/NousResearch/hermes-agent/releases/tag/v2026.5.7 - Hermes Agent Documentation:
https://hermes-agent.nousresearch.com/docs - Hermes Agent GitHub Repository:
https://github.com/NousResearch/hermes-agent

