会社を経営して18年になります。その間、採用で何度も失敗してきました。5回以上は「この採用は間違いだった」と思った経験があります。大企業の採用ノウハウは、2〜5人規模の会社にはそのまま当てはまりません。むしろ、まったく別のゲームだと思ったほうがいいです。自分の失敗から学んだことを、なるべく具体的に書きます。
失敗1:スキル重視で人柄を見なかった
数年前、スキルが高い人を採用して失敗しました。技術的には優秀で、ポートフォリオも立派でした。面接での受け答えもしっかりしていて、質問への回答も的確でした。即戦力だと確信して採用しました。
最初の2週間は順調でした。仕事は早いし、品質も高い。「いい人を採用できた」と喜んでいました。
問題が表面化したのは3週目からです。既存メンバーの仕事の進め方に対して、否定的な発言が増えました。「このやり方は非効率です」「前の会社ではこうしていました」という指摘自体は正しいこともありましたが、言い方がきつかったのです。既存メンバーが萎縮し始めました。
自分が間に入って調整しようとしましたが、根本的な価値観のズレは埋められませんでした。結局3ヶ月で辞めてもらうことになりました。退職の際のやりとりも気まずかったです。お互いにとって不幸な3ヶ月でした。
この経験から学んだのは、2〜5人の会社では「一緒に働けるか」がスキルより重要だということです。大企業なら部署を変えたり、関わりを減らしたりできます。でも5人の会社では、全員が全員と毎日関わります。一人でも相性が悪い人がいると、組織全体の空気が悪くなります。採用の失敗コストは、小さな会社ほど大きいのです。
スキルは後から伸ばせます。教育すればいいのです。でも、価値観やコミュニケーションスタイルは、大人になってから変わることはまれです。だから今は、スキルが60点でも人柄が合う人を選んでいます。
失敗2:仕事内容を曖昧にしたまま採用した
「何でもやります!」と意欲的な人を採用したことがあります。面接では好印象で、やる気も十分でした。柔軟に対応してくれそうだと思いました。
でも、入社後にお互い困りました。「今日は何をすればいいですか?」と毎朝聞かれます。自分も毎回指示を出すのに30分かかります。指示待ちになっているわけではなく、本人も「何をすればいいかわからない」のです。お互いの期待値がズレていました。
小さな会社は確かに1人が複数の役割を担います。でも「何でもやる」と「具体的にこれとこれをやる」は違います。「何でもやります」は「何を任せるかは会社側が決めてください」という意味であって、「自分で仕事を見つけます」という意味ではないことが多いのです。
結局、お互いに消耗して半年で終わりました。その間の採用コスト、教育コスト、引き継ぎコストは小さくありません。金銭面だけでなく、精神的な消耗も大きかったです。
この失敗から、採用時に「最初の3ヶ月でやってもらうこと」を具体的に決めるようにしました。できれば「1週目はこれ、2週目はこれ、1ヶ月後にはこの状態」くらいの粒度で決めています。入社前にお互いの期待値を合わせておけば、「こんなはずじゃなかった」を大幅に減らせます。
失敗3:急いで採用した
「今すぐ人が足りない」という焦りから、十分に選考せずに採用したことがあります。面接1回、30分だけで決めました。応募者は2人しかいなくて、その中から「まあこの人でいいか」と妥協しました。
案の定、ミスマッチでした。面接では見えなかった部分が、一緒に働くと山ほど見えてきます。報連相のタイミングが合いません。テキストコミュニケーションの感覚がずれています。仕事の優先順位の付け方が違います。「大事なことを後回しにする」タイプの人で、緊急度の高い案件が放置されることが何度もありました。
30分の面接でわかることは限られています。特にリモートワーク中心の働き方では、テキストコミュニケーションの質が業務に直結します。面接での会話力と、Slackでのやりとりの質はまったく別物です。
今は、必ず業務体験(1日〜1週間の有償トライアル)を挟むようにしています。日当を払って、実際の業務に近い作業をしてもらいます。この期間で見るのは成果物の質だけではなく、「仕事の進め方」「報連相のタイミング」「テキストコミュニケーションの丁寧さ」「わからないことを聞けるか」です。
トライアル期間はお互いにとって有益です。応募者側も「この会社で本当にやっていけるか」を判断できます。実際に「やってみたら思っていた仕事と違った」とトライアル後に辞退されたこともあります。でもそれはミスマッチの採用を防げたということなので、むしろ良い結果です。
失敗4:自分と似たタイプばかり採用した
これは失敗と言うより、長期的な反省です。気づいたら、自分と似たタイプの人ばかり集めていました。考え方も仕事のスタイルも近い人たちです。アイデアマン、行動派、大雑把。居心地はいいですが、視点が偏ります。
全員が「いいですね!」「やりましょう!」と盛り上がる会議では、リスクに気づけません。「それ、本当に大丈夫ですか?」と水を差す人がいないから、計画の穴が見えないまま進んでしまいます。実際にそれで失敗した案件がいくつかあります。
今は意識的に、自分と違うタイプの人を1人は入れるようにしています。細かい作業が得意な人、慎重な性格の人、数字に強い人。自分にはない視点を持っている人がチームにいると、判断の質が上がります。多様性というと大げさですが、5人の会社でも「違う目」は必要です。
今の採用基準
これらの失敗を重ねて、今はこんな基準で採用しています。
- スキルは60点で十分。伸びしろがあるかどうかを見ます。具体的には、わからないことを自分で調べて解決しようとするかどうかです。Google検索の仕方、ChatGPTへの質問の仕方を見ると、その人の学習能力がわかります
- 連絡のレスポンスが速いか。内容の質より、まずは返信の速さを見ます。小さな会社では、コミュニケーションの速度が業務の速度に直結します。24時間以内に返信がない人は、うちの働き方には合いません
- トライアル期間の仕事ぶり。面接だけでは絶対にわからないことがあります。1日でもいいから一緒に働いてみます。成果物だけでなく、プロセスと態度を見ます
- 既存メンバーとの相性。可能であれば、既存メンバーとオンラインでランチや雑談の場を設けます。メンバーの直感的な「合う」「合わない」は、意外と正確です
- 困ったときの対処法。「過去に仕事で困った経験と、どう解決したか」を聞きます。自力で解決できる人か、すぐ人に頼る人か、何もせず放置する人か。小さな会社では自走力が命です
完璧な採用はないと思っています。でも、上の基準で採用するようになってから、大きなミスマッチはかなり減りました。
採用に失敗したときの対処
それでもミスマッチは起きます。大事なのは、気づいたら早く対処することです。
「もう少し様子を見よう」と問題を先送りにすると、既存メンバーの士気が下がります。「なんであの人がまだいるの?」という空気がチームに広がると、まともに働いている人のモチベーションが落ちます。最悪の場合、優秀な既存メンバーのほうが先に辞めてしまいます。
自分の経験では、1ヶ月で違和感を感じたら、3ヶ月以内には結論を出すべきです。6ヶ月待っても、状況が好転したことは一度もありません。人の基本的な性格や仕事のスタイルは、短期間では変わりません。
つらい判断ですが、早めに正直に話し合って、お互いにとって最善の選択をします。相手を責めるのではなく、「合わなかった」という事実を共有します。これも経営者の仕事の一つだと、何度も痛い目を見て学びました。
リモートワーク時代の採用で変わったこと
コロナ以降、うちは完全リモートワークに移行しました。これで採用の基準も変わりました。
リモートワークでは「テキストコミュニケーション能力」が圧倒的に重要です。Slackやチャットでのやりとりが業務の大半を占めるので、「文章で的確に伝えられるか」が仕事の質に直結します。面接では口頭で上手に話せても、テキストだと曖昧な指示しか出せない人もいます。
そこで、選考プロセスにテキストベースの課題を入れるようにしました。簡単なタスクを出して、チャットでやりとりしながら進めてもらいます。質問の仕方、報告のタイミング、文章のわかりやすさ。30分のテキストやりとりで、その人の仕事の進め方がかなり見えます。
もう一つ変わったのは、「自走力」の重要性が上がったことです。オフィスなら「困ったら隣の人に聞く」ができますが、リモートだとそれが難しいです。自分で調べて、試して、どうしてもわからないときだけ聞く。この姿勢がある人とない人で、リモートワークの生産性は大きく変わります。
採用面接では「リモートワーク経験はありますか」「一人で作業を進めるとき、困ったらどうしますか」という質問を必ず入れるようになりました。答え方で自走力がある程度わかります。
最後に、これから採用を考えている小さな会社の経営者に伝えたいことがあります。採用の失敗は避けられません。どれだけ慎重に選んでも、一定の確率でミスマッチは起きます。大事なのは「失敗しないこと」ではなく、「失敗したときのダメージを最小限にする仕組み」を持っておくことです。トライアル期間の導入、入社後1ヶ月のフォローアップ面談、合わなかった場合の退職プロセスの整備。これらを事前に準備しておくだけで、採用の失敗コストは大幅に下がります。採用は賭けではなく、リスク管理の問題です。
まとめ
小さな会社の採用は「一緒に働けるかどうか」が全てです。スキルは後から身につきますが、相性は後から変えられません。採用を急がない、業務体験を挟む、仕事内容を具体的に決めておく。この3つだけでも、ミスマッチはかなり減るはずです。採用は経営判断の中でも最も難しいもののひとつです。完璧を求めるのではなく、失敗のコストを最小限にする仕組みを作ることが大事だと思っています。
